浜井建築デザイン


浜だより 2009/11月「総括-1
20091113日金曜日

NY20091115_3

こんにちは、
浜井(イン・マンハッタン)です。
一家は今月も元気に過ごしています。

気がつけば11月も中旬。今年も残すところ1ヶ月半です。
2月に帰国する我々にとっては、NY生活もあと3ヶ月となりました。

同時テロの翌年2002年に渡米し、来年2010年まで8年間。
あっという間のアメリカ生活でした。

渡米前に思い描いていた通りになったこと。そうでなかったこと。
いろいろあります。


大学院留学:80点

いま思えば、8年間の中で、留学時代が最も厳しい時期でした。
日本で大学院を修了していましたし、設計事務所で3年間の実務経験、一級建築士の資
格もありました。それに州立大は、ハーバードなどの私立のエリート大学と違って、
庶民の大学です。「問題は英語力くらいかな。。」と考えていましたが、甘かったで
す。。

確かに最初の1年は、教授が出す課題の内容がわからないほどで、英語で苦労しました。
授業をボイスレコーダーに録音して後で聞き直したり、友人のインド人留学生達に課
題内容を聞き直したりという感じで一切が五里霧中でした。授業について行くだけで
ギリギリ。夜も週末もなく、アメリカの学生生活をエンジョイするというレベルでは
ありませんでした。

しかし最大の苦労は2年目、英語ではなく、修士論文でした。
日米の大学を比較すると、日本では提案が興味深くて結論がまとまっていれば、途中
の論理はある程度の飛躍は黙認という感じ。アメリカの大学では、途中こそが大事と
いう感じで、論理構成を徹底的にチェックします。

例えば「風が吹けば、、、、、桶屋が儲かる」という論旨だったとして、結論にたど
り着く過程をすべて、隙間なく、事実や歴史に基づく根拠を用いて、自分の考えでの
説明を求められます。

逆に言うと、思考さえ積み木のように積み重ねて行けば、達した結論が突飛で不格好
でも評価されます。

なぜでしょう?? おそらく、単一民族&単一文化でやってきて、他人を説得するのに多
くの説明がいらない日本と、多民族国家で論理的説得がどうしても必要なアメリカと
の違いではと思います。

説明のために、あえて陳腐なアメリカ人像、日本人像を持ち出せば、、
アメリカ人:「あいつの言っていることは、自分の経験上あり得ない。見たこともない。
けど、説明を聞くと理にかなっている。」
日本人:「常識的に考えてあり得ない。実例/前例がないのだから、机上の空論。」
ということでしょうか。

この経験で、私なりに強く感じたことは、
日本とアメリカでは価値を置く場所が違って、
 日本では「技術力と完成度」の勝負、
 アメリカでは「発想力と論理力」の勝負。ということです。

まわりの論文を見てみると、日本は粒ぞろい、アメリカはみんなバラバラな感じがし
ます。身近なデジタル製品で例えれば、日本は、ソニーやシャープのように技術力や
完成度で非常に優れる一方、アメリカは、アップルの製品ような荒削りでも発想力に
優れる商品が多い、というような。。

どちらが良い悪いでなく、
先の見えない時代、ブレイクスルーが必要な時代には、アメリカ流。
次の時代への進むべき道、方向が定まってからは、日本流。
「両方、意識的に使い分けられる人がいたら、強いだろうな」と思いました。

ただ建築家としては、最終的には建築物という表現手段を持っているわけで、言葉で
くどくど説明するのはヤボな気が(今でも)しています。しかし、論理を隙間なく構築
する手法というのも十分に納得できましたし、論文制作で徹底的に叩き込まれました。

何度もレポートを匿名の論文評価委員会に再提出させられて、出来の悪い頭を酷使さ
せられました。考えさせられ、刺激になりました。

留学経験は、十分合格点の80点です。


仕事経験:70点

日本で、大学で建築の勉強をし、社会に出て働いた経験から「アメリカに渡っても、
大学でのアカデミックな建築しか知らないのでは片手落ちだ」という考えがありまし
たし、「ニューヨークに暮らしながら働くこと」こそが私の夢でした。
その点で、夢は叶えられたといえます。

働いたのは、所員7人のティムの小規模オフィス。自分の事務所を開くのが昔からの夢
ですから、個人事務所で働いた経験のない私としては、仕事の進め方、クライアント
とのやり取りなど、得ることが多かったです。

しかし3年が経ち、4年目くらいから「お気楽イタリアンの下で働くのも、そろそろか
な。。他の事務所で経験を広げたい」と考え、いくつかの事務所で面接を受けました
が、その願いは叶いませんでした。。

仕事内容は、土地の限られたマンハッタンでは超高層を除けば新築工事はほとんどな
いため、既存建物の改装工事が中心でした。日本では築30~40年で壊して新築するこ
とが多いですが、これからは日本でもリノベーションが増えると思われますので、
築100年でも住み続けるNYでの経験は、得るものが大きかったと考えています。

仕事経験は、転職が叶わなかったので、ギリギリ合格70点です。


長くなりましたので、来月に続きます。
hamai


P.S.
今月初め、私の母(7人兄妹の)5人姉妹が来て、NYを案内しました。
久しぶりのガイドは、観光気分で楽しかったです。

子供の頃の夏休み、大勢のいとこ達と新潟の海でお世話になったおばさん達です。
親族の数は、新メンバーの双子を加えて今や72人。毎年の一族旅行は宿貸切りです。
このNYで会うのは、とても不思議な感覚でした。